「在宅は当たり前」から「原点」へ
第48回を数える障害福祉サービス事業所向け研修会「原点回帰の会」に参加してきました。
今回のテーマは、コロナ禍を境に一気に身近になった『在宅支援・在宅就労』。
10月からの制度厳格化を目前に控え、現場は「今、何が適切で、何が不適切なのか」を突きつけられている最中です。
今回はその生々しい実態と、制度の背景、そして相談支援専門員を含む私たち支援者が持つべき視点について、多くの学びと反省を得た回でした。
コロナ禍が広げた「在宅」という選択肢
会の冒頭、会を主催する寺川から簡単な在宅支援の歴史が語られました。
もともと在宅就労は、肢体不自由や医療的ケアが必要な方など、対象がかなり限定された制度でした。
それが新型コロナウイルスの感染拡大により、事業所に人が集まれなくなったことをきっかけに、国が事業継続のために在宅利用を認めるようになり、対人関係が苦手な発達障害・精神障害・知的障害の方々にまで対象が広がっていった――という経緯です。
登壇されたコネクトの松尾さんからは、コロナ以前の在宅は非常にハードルが高かったという実体験が共有されました。
参加された方からのお話では、福岡市で初めて在宅就労を認めてもらう際には「前例がない」と言われ、行政や医療機関を巻き込みながら一つひとつ前例を作っていったというお話が共有されました。
週1回の必須訪問、毎日パソコンでの状況確認、業務を必ず与える――このプロセスを経て、最終的にその方は一般就労を果たされたそうです。
もう一つの事例では、大学時代からの引きこもり状態だった方が、週1回の半日在宅からスタートし、7か月かけて週3日通所、最終的には約1年で一般就労に至ったという、まさに「スモールステップ」の好例が語られました。
恥を忍んで語られた「不適切事例」の数々
今回の会で最も印象に残ったのは、講師自らが自分の事業所の「恥ずかしい話」を赤裸々に語ってくれたことです。
全国的にも有名な就労移行支援の職員である井福さんは、1年前に異動で戻った際、利用者の1/3近くが在宅利用になっており、しかも実際に在宅から就労に結びついたのはこの1年でわずか2人だったと告白されました。
オンラインでカメラをオフにしたまま2時間、下手をすればベッドに横になっている利用者がいたかもしれない――という状況。
さらに驚いたのは、在宅中に外国語を勉強し始める利用者が続出したというエピソードです。
「私はフランス語をやります」「私はロシア語を勉強します」と、就労に全く結びつかない“趣味”が広がってしまったというお話には、会場からも笑いと同時にどよめきが起きていました。
他にも、
- A型事業所への見学の日に、B型で在宅利用に切り替える
- ドクターが特段理由もなく「在宅じゃないと無理」と診断書を出す
- 通所がしんどいからと近くのA型に移った途端、そちらでも在宅を選ぶ
といった事例が次々と共有されました。
ある参加者の「不適切な事例がこれだけ出てくるということは、在宅支援においての適切な事業所なんてないんじゃないか」という一言は、会場の空気を代弁するような、非常に印象的な言葉でした。
ただし、同時に在宅支援の必要性もまた、参加者から語られました。
対人関係が苦手な方にとって、コロナ禍でソーシャルディスタンスを保つことが求められたことは、ある種、通所を行う上では最適な環境だったと良います。
しかし、コロナの終了に伴い、再び対人関係に苦しむようになった。
その中で、「在宅就労」「在宅支援」という選択肢は、働きたいを実現するためには必要なサービスにもなっていることが語られました。
問題は、制度が本来意図した「自立への橋渡し」ではなく、「居心地の良い避難場所」になってしまった――という論点は、支援者として深く自省させられるものでした。
10月からの制度改正 ― 7つの必須条件
制度面では、10月以降、在宅支援はあくまで「原則対面」の例外的な形態として位置づけられ、以下の条件を満たすことが必須となる旨が共有されました。
- 訓練メニューの確保(知識・能力向上のための作業・訓練)
- 1日2回の連絡・進捗確認・日報作成
- 緊急時対応体制の整備(概ね1時間以内に駆けつけられること)
- 随時支援ができる体制の確保
- 月1回の評価(訪問・通所またはICT活用)
- 月1回の対面での目標達成度確認
- 週1回の評価と月1回の評価は兼ねることが可能
この条件を聞きながら、参加者の一人からは「これはコロナ前の基準に近い、むしろ当時よりは緩いかもしれない」という声もあり、単なる「規制強化」「厳しくなった」のではなく、元に戻った、すなわち“原点回帰”そのものだいうことでした。
同時に、支給決定にあたっては市町村が事前のアセスメントに基づき「在宅による具体的効果」を判断する必要があるとのことで、福岡市では10月以降、受給者証への記載が必要になる見込みだそうです。
ただし運用面では自治体によって温度差があり、福岡市はやや緩やかな移行になりそうだという生の情報も共有されました。
「なぜ在宅なのか」という目的意識
制度説明の中で強く印象に残ったのは、在宅支援には大きく2つの目的があるという整理です。
一つは、将来的な通所・一般就労を見据えたスモールステップとしての在宅訓練。
もう一つは、在宅での就労そのものを目指す在宅勤務のための訓練。
どちらを目指しているのかが曖昧なまま「なんとなく在宅」を続けてしまうことが、不適切利用の温床になっているという指摘には、深く頷かされました。
来年4月から始まる「就労選択支援」との関係についても議論がありました。
就労選択支援自体は原則対面であり、在宅という選択肢はない一方で、B型・A型・移行支援のアセスメントは今後より個別化・精緻化されていく可能性があるとのこと。
「目が見えない方の選択支援」「耳が聞こえない方の選択支援」がそれぞれ必要なように、在宅を希望する方へのアセスメントも今後変わっていくかもしれない、という展望が語られました。
児童分野・関連分野からの視点
児童発達支援や訪問看護に携わる参加者からも、それぞれの立場からの発言がありました。
特別支援学校での進路説明会に参加された方からは、保護者向けの就労情報が「事業所名と電話番号の一覧」しかなく、保護者が一件一件電話をかけて調べなければならない現状への驚きの声が上がっていました。
「本来は計画相談だよね、そこは」という話に上がったように、相談支援専門員がもっと早い段階から関われる余地があることを感じさせられました。
食品関係の事業所からは、ノロウイルスなどの感染症により本人は元気でも出勤停止せざるを得ないケースについて、在宅支援としての請求の可否や、訪問支援を活用した代替案の検討など、非常に実務的な議論が交わされました。
答えの出ない部分も多く残りましたが、「制度の隙間で困っている本人の状況にどう向き合うか」という姿勢そのものが、この会のテーマである“原点”を体現していたように思います。
「原点回帰」という言葉の重み
会の終盤、ある参加者の「支援者としては、この人のこの支援のスタンスが、今のこの人の状況に本当に合っているのかを、ずっと考え続けなければいけない」という言葉が心に残りました。
在宅支援自体が悪いものではない。
ただ、コロナ禍という特殊な状況の中で「制度上使えるから使う」という発想が広がり、支援の中身が置き去りにされてしまった側面があったのではないか――そんな共通認識が、立場の異なる参加者たちの間で静かに共有されていくのを感じました。
A型・移行支援が乱立した時代の話とも重ね合わせながら、「必要だから制度がある。しかし、制度があるからいいだろうという発想をする人が必ず出てくる」という言葉は、在宅支援に限らず、私たちが日々向き合う福祉サービス全般に通じる普遍的な警句だと感じました。
おわりに
今回の会は、制度改正の情報共有という枠を超えて、「支援とは何のためにあるのか」を参加者一人ひとりが問い直す時間になりました。
恥を忍んで自分の事業所の課題を語ってくださった皆さんの誠実さに、心から敬意を表したいと思います。
10月以降、在宅支援の現場はより厳格な運用が求められていきます。
相談支援専門員としても、モニタリングの中で「なぜ在宅なのか」「その先に何を見据えているのか」を、本人・ご家族・事業所とともに丁寧に確認していく責任を、改めて強く感じた研修会でした。
次回、原点回帰の会は11月20日(金)開催予定です。
引き続き、この地域の福祉を支える仲間たちの学びの場を大切にしていきたいと思います。
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