第35回ハマチの会のご報告




はじめに

年度末の忙しい時期にもかかわらず、今回も多くの方々にお集まり頂きました。今回は、35回目の児童分野の勉強会「ハマチの会」の開催となりました。平日の夜8時からというハードな時間帯に、放課後等デイサービス、児童発達支援、相談支援、そして訪問看護など、多彩なバックグラウンドを持つ方々にお越し頂きました。ご参加頂いたみなさん、ありがとうございました。


今回は、提案で「一方的に話を聞くだけでなく、皆さんで葛藤や事例を持ち寄り、話し合いながら何かしら持ち帰れる会にしたい」ということで、まさにその言葉通り、今回はゲストの吉田さん(児童発達支援テクノビ代表)を中心に、フリートーク形式で現場の本音が飛び交う、密度の濃い2時間となりました。




1. 今年度のテーマは「標準化」——カリスマに頼らない組織をつくる

吉田さんが冒頭、自法人で今年度最も力を入れてきたこととして挙げたのが、「療育の標準化」でした。


「カリスマがいることでチームの質は上がる。でも、その人が辞めた瞬間にガンと下がる。カリスマに頼らなきゃいけないシステムそのものが問題だ」


この言葉は、参加された多くの人の心に刺さったのではないでしょうか。思い当たる節がある方も多かったのか、頷いている方も多くいたのが印象的でした。


事業所が成長するにつれ、高いスキルを持つ専門職が入ってくると、どこかでその人の言葉が「正解」になっていく。資格や経験があればあるほど、周囲は頼り、本人も気づかぬうちに「正解を出す人」として機能してしまう。それが組織の自律的な思考力を奪っていく——。


吉田さんはこれを「諸刃の剣」と表現しました。


そこで吉田さんが取り組んだのが、以下の2点でした。


①共通言語をつくる

保育士、作業療法士、理学療法士、言語聴覚士、学校教員……異なる専門職が同じ場で療育をすれば、使っている「言葉」の意味が違います。


「保育士さんが使う『集団』と、セラピストが使う『集団』は意味が違う。言語が違う人たちが同じ場にいるようなイメージ」


そのため、新人教育プログラムを整備し、「集団とはこういうこと」「個別支援とはこういうこと」という共通言語の定義から始めたといいます。まず言葉が揃わないと、支援の質を高める話すらできない、という本質を突いた取り組みです。


②評価を統一する

介入(支援の方法)は各職種の強みを活かして多様でよい。しかし、評価だけはチーム全員が同じ認識を持てるよう統一するという方針を徹底しました。


「介入が間違っているのか、評価が間違っているのか、両方間違っているのか。それが分からなければ、何も改善できない」


味噌汁の出汁を変えた例えがとてもわかりやすい内容でした。「何も変えずにたまたま美味しくなっても、なぜ美味しくなったか分からなければ再現性がない」——これは療育の質担保を考える上で非常に明快な視点です。



2. 『セラピスト至上主義』の怖さ


話題はここから一気に、現場で多くの事業所が直面しているリアルな問題に移りました。


言語聴覚士(ST)を事業所の「売り」にしている児発・放デイが多い中で、吉田さんが語ったのはその危うさでした。


「STを売りにしてオープンしたら、2〜3ヶ月でそのSTが退職した。親御さんからは『STがいるから来たのに』とクレームが来た」


さらに驚いたのが、現在、言語聴覚士のフリーランス化が急速に進んでいるという情報。ST協会がフリーランスを推奨しており、複数の事業所を掛け持ちして正社員以上の収入を得られる働き方が広がっているとのこと。


「半日で数万円。囲い込もうとしても、できる時代ではなくなってきている」会場からこのような話が出てくる中、この現実を受けて、吉田さんがSTの使い方として提案したのは明快でした。


「STには介入ではなく、評価をしてもらう。そしてその評価内容を保育士でもできるプログラムに落とし込んでもらう。できればカリキュラムとして資料に残してもらう」


その人がいなくなっても、知識が組織に残る仕組みをつくる——。これはSTに限らず、あらゆる専門職の活かし方として共通する考え方だと思います。


また、他の参加者から実際の悩みとして挙がった「STがカルテに専門用語を書きすぎて読めない」という声。吉田さんは即座にこう応じました。


「分からない言葉は分からないと言う。保護者に伝わらない支援に意味はない。ここは病院じゃない」


「伝えること」と「伝わること」は違う——。支援記録や連絡帳、保護者への説明も含め、全ての言語は「相手が理解できるか」が基準であるべきだと改めて感じました。




3. 信念対立解明アプローチ——専門職同士の衝突をどう乗り越えるか


専門職同士の価値観のぶつかり合いについて、吉田さんが紹介してくれたのが「信念対立解明アプローチ」です。


「どちらが悪いのではなく、それぞれの正義がある。その正義の根っこにあるものを互いに語り合うことで、問題が問題でなくなる」


病院での経験を例に挙げながら、「歩行訓練をしたい理学療法士」と「転倒リスクを心配する看護師」の対立は、どちらも命を守りたいという共通の目標から来ている——という話は、とても腑に落ちるものでした。


表面的な主張の違いではなく、その背景にある価値観や経験に耳を傾けること。これは専門職間だけでなく、保護者支援にも通じる姿勢だと思います。



4. コアップアプローチ——子ども自身が目標を決める支援


訪問看護の支援者からは、「不登校のお子さんへの関わり方が難しい」という声が上がりました。保護者は「遅刻せずに登校してほしい」という目標を持っているが、子ども自身はそこに向かえていない——という葛藤です。


吉田さんが紹介したのが「コアップアプローチ」でした。


「子ども自身が目標を決める。まずその子が達成したいことを一緒に叶えることで、『この人は自分に寄り添ってくれる』という信頼関係が生まれる。そこから初めて、保護者の希望にも耳を傾けられるようになる」


鉄棒ができるようになってほしいという保護者のニーズに対して、子どもが「自転車に乗りたい」と言った事例。まず自転車を一緒に練習し、乗れるようになった時の「俺、やればできるじゃん」という体験が、その後の支援への意欲につながったというエピソードは、支援の順番を考えさせられるものでした。


「親の目標と子どもの目標が食い違っていたら、いきなり親の目標を押しつけても無理。まず子どものニーズに寄り添うことが先決」



5. 保護者目線からのリアルな声


今回、相談支援専門員として参加されていた方が、ご自身がダウン症のお子さんの保護者でもあるという立場から、非常に率直な声を届けてくださいました。


「言葉が遅いとなったら、やっぱりSTがいるところを探す。もうそれは洗脳されているというか……保護者としてはプロに任せたいんです」


支援者として当然のように語っていたことが、保護者からはどう見えているのか——その視点の落差を突きつけられた瞬間でした。


また、日々の連絡帳の内容が担当者によってバラバラであること、「伝わりませんでした」で終わるのではなく「こうしたら伝わりました、家でもこうするといいですよ」という形で書いてほしいというリクエストも、現場スタッフへのとても具体的なフィードバックとして響きました。


吉田さんはこう応えました。


「親御さんがいてくださるからこそ、共に高めていける事業所の方が健全。フィードバックはありがたいもの」


保護者と事業所が「共に育てる」関係であることを、改めて確認できた場面でした。



6. 定型発達のマイルストーンは「モアベター」だった


最後に、定型発達の見方についての話が展開されました。


「定型発達を目指すことはやめた方がいい。それはゴールではなく、あくまでも指標」


さらに驚きの情報として、2023年に定型発達のマイルストーンが改訂されたという事実が紹介されました。


  • 「ハイハイ」がマイルストーンから削除された
  • 以前のマイルストーンは「モアベター(こうなったらいいな)」で作られていたが、現在は「75%の子がこれを達成していなければ早期に相談を」という最低基準に転換された
  • スプーンを使おうとするのは1歳6ヶ月からが基準など、従来の常識と異なる部分が多い


「マイルストーンと比べることに終始すると、遅れているものをずっと追い続けるような、苦しい支援になる」


この言葉は、お子さんの「できないこと」ではなく「できること・好きなこと」から支援を組み立てる大切さを改めて気づかせてくれました。



参加を終えて


今回の会は「年度末フリートーク」という形でしたが、むしろそれだからこそ、現場の本音が飛び交い、非常に実践的な学びの場となりました。


今回の会を通じて私が持ち帰った問いは以下の3つです。


1. 自分の事業所・チームに「カリスマ依存」の構造はないか?

2. 専門職同士、そして保護者との間で、本当に「共通言語」が成立しているか?

3. 子ども本人のニーズと保護者のニーズを、自分はきちんと切り分けられているか?


夜8時からの2時間、終わった時には「もっと話したかった」という声が自然と漏れていました。それがこの会の価値を物語っていると思います。


次回のハマチの会は3ヶ月後の6月19日開催予定です。また現場の仲間たちと、正直な言葉で語り合える場を楽しみにしています。



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