第46回 原点回帰の会のご報告



2026年2月27日(金)夜、第46回「原点回帰の会」を開催しました。今回はいつもご登壇いただいている松尾さんが術後療養中でお休みとなりましたが、リタリコワークス博多の井福さんにメインをご担当いただき、おかげさまで内容の濃い時間となりました。
 

▍はじめに:この会の原点

この「原点回帰の会」は、もともと就労支援に携わるメンバーが集まり、
「そろそろ原点に戻らないかんやろう」
という言葉をきっかけに始まった研修会です。就労支援の中でも「何のための支援か」を考え続けるための場として、毎回さまざまな現場の声が集まります。今年度から法人格のもとで新年度最初の研修会としての位置づけになりました。就労支援を中心に、生活介護や訪問系サービスなど、大人の障害福祉全般を扱う会として続けています。
 

▍自己紹介タイム

今回は少人数でしたが、就労移行支援事業所、相談支援事業所、グループホーム、児童発達支援、訪問看護など、多分野から参加いただきました。アグスキャリア博多の黒木さんからは、
「今月、全員就職で出しました。重度の知的障害のある方も含めて。」
という嬉しい報告も。閉所のタイミングに合わせてご参加くださり、定着支援の真っ最中とのこと。本当にお疲れさまでした。
また、井福さんが昨年6月に潰瘍性大腸炎と診断されたことも話題になりました。難病を抱えながら支援の最前線に立つ彼が
「共感できるようになった。」
と語る姿に、支援者自身も人生の当事者であることを改めて感じました。



▍テーマ①:就労支援の「不適切運用」問題

今回の主要テーマは、関西で発覚したA型・B型事業所による加算の不適切運用問題でした。
仕組みをおさらいすると、障害のある方が就労して6ヶ月継続すると「一般就労」としてカウントされ、事業所に大きな加算がつきます。この制度を悪用し、6ヶ月で退職させてまた就職させる、いわゆる「就職→戻す→就職」のループが常態化していたというものです。
「グレーではあるけれど、法律的にアウトとも言えない状況だった。それがものすごいスピードで変更になった。」(伊福さん)
厚労省の対応は異例の素早さで、現場にも大きな波紋をもたらしています。一方でリタリコワークス博多には、このルール変更によって就職者を出しにくくなった他事業所から求人の依頼が来るなど、「いい動き」も生まれているとのことでした。
障害者雇用率とペナルティのお金の流れ
雇用率未達成企業は1人当たり月5万円の納付金を支払う義務があります。1万人規模の企業なら法定雇用率2%で200人分、単純計算で月1,000万円にのぼります。この納付金が助成金やトライアル雇用の原資になっている仕組みも紹介されました。
「障害者雇用率を達成できていない企業が、次のインセンティブを作っているというのが現実です。」
日本の企業で雇用率を達成しているのは半分程度。大手ほど本社・支店問題や在宅勤務の活用など複雑な事情を抱えています。ただ、大手企業の障害者雇用枠は福利厚生や有給保障が充実していることも多く、
「むしろ大手に就職してもらった方が、のびのびと暮らしているケースが多い。」
という実感も共有されました。
就労移行支援の構造的ジレンマ
就労移行支援は、就職者を出すほど単価が上がる一方で、その月の収入は即ゼロになります。
「就職者を出したいけど、新しい人に来てもらわないと回らない。やりたくないけど、今ちょっと就職してもらうと困るな、というのがリタリコでも普通に起きます。」
これは精神科病院における退院促進問題と構造が全く同じだと感じました。制度が支援者の行動を歪めてしまう現実を、改めて直視せざるを得ない話でした。
 

▍テーマ②:複雑なケースから見えてくる支援の本質

井福さんから、現在進行中の2つの印象的なケースが紹介されました。
ケース①:意思が見えない男性のケース
保護観察中で、ご両親が同伴で就労移行支援を利用しているが、本人の就労意欲が全く見えない。クロスワードパズルを3時間やるか、寝ているかの状態です。
「『働きたくない』でいいんです。ご本人の意思があれば。でも今のところそれもない。その違和感がすごく引っかかっています。」
支援に入ろうにも、本人の意思確認ができないジレンマ。さらにご両親の過保護な関わりや、たらい回し状態の相談機関の問題も重なり、
「本人の支援の前に、親の支援からだよね。」
という言葉が出るほど複雑な状況でした。
ケース②:多くの人格を持つ女性のケース(解離性同一性障害)
来所時に現れるのは幼い人格であることが多く、訓練が難しい状態です。しかし興味深いことに、以前は働けていた経験があり、安心できる環境では主人格が出てくることがわかっています。
「幼い人格と関係性を作れば作るほど、そちらで定着してしまう。どう教えるか、が今一番面白いケースです。」
スタッフが試行錯誤する姿が、就労支援の醍醐味であり難しさでもあると感じました。



▍テーマ③:eスポーツ・絵作業と「働く」の原点

B型事業所でのeスポーツや絵を描く活動が厚労省の指針で認められなくなりつつある問題も取り上げました。通知を見た事業所が
「厚労省の方針により当事業所ではその活動を中止します」
と利用者に告知する事例が出ており、相談支援の界隈でも批判の声が上がっているとのことです。
「それは厚労省の責任じゃない。ちゃんと授産活動として商品化していこうとしてこなかった事業所側の問題です。」
その言葉が突き刺さりました。eスポーツについても、家から引き出す入口としての意義は認めつつ、
「そこから先、ゲームだけさせて社会を知らせるつもりか。ゲームの中のチャットで喋れることを、自分の言語にどう置き換えていくか。そこが腕の見せ所です。」
と、支援者の関わり方の質が問われました。
 

▍テーマ④:「利用者がお客様」になってしまった福祉

会の後半は、福祉の本質的な問いへと議論が深まりました。
「措置の時代は雑に扱われることもあったけれど、志のある支援者は『こんなんじゃ社会に出られないよ』と厳しいことも言えた。契約になってお客様は神様になった途端、来てくれないと困るという関係性になってしまった。」
食事代無料・交通費支給が「家から引き出すための工夫」として始まったものが、今では集客ツールになってしまっている。
「引き出す支援をちゃんとやっているところが、一番単価が低いんですよ。」
そのしわ寄せで、B型から生活介護に移行する事業所も増え、生活介護がB型でもがんばれた方で溢れかえる逆転現象も起きています。
また、福祉の制度が充実した地域ほど、インフォーマルな支え合いが失われていくという指摘も印象的でした。
「昔は事業所がなかったから、地域の親の会や地域活動が活発だった。今はほとんど衰退してしまった。福祉の制度化が、地域の福祉力を下げてしまっている。」
 

▍参加者からの情報共有:映画「ノルマル17歳」上映会

黒木さんより、3月28日(土)にまどかぴあで開催される映画「ノルマル17歳」の上映会+朝倉先生の講演会のご案内がありました。発達の観点から子どもたちを見つめた作品です。ご関心のある方はぜひ。
また、山口達也さんの講演に参加した話から、アルコール依存症の最新治療についても話が及びました。「底付き体験を待つ」という従来のアプローチから、欲求そのものを抑える薬(ハームリダクション)の活用へと治療の考え方が変わってきているとのこと。
「砂漠で水を求めるほどの渇望。それが緩和されるだけで、だいぶ違う。」
支援のあり方は常に更新されていく。そのことを改めて学ぶことができました。
 

▍おわりに

今日の話を通じて感じたことは、「原点回帰」という言葉の重さです。
制度は変わり、報酬は揺れ、現場は疲弊することもある。それでも、「この人に何が必要か」を問い続ける姿勢こそが、就労支援の、そして障害福祉の原点であるはずです。
「何のための就労支援なんだ、という問いに常に戻ってくる。だからこの会を原点回帰の会と呼んでいます。」
今だけを知っていればいいのではなく、なぜこの制度が生まれたのかという歴史を知ること。そしてその精神を、今の自分の支援に活かしていくこと。それが私たちに求められていると感じた夜でした。
 

次回のご案内

•ハマチの会(児童分野):3月27日(第4木曜日)※通常と異なる週ですのでご注意ください
•第47回 原点回帰の会:5月15日

ご参加いただいた皆さん、ありがとうございました。会員登録(個人年間3,000円・法人年間10,000円)でアーカイブ動画の視聴や研修の無料参加が可能です。ぜひご検討ください。



コメント