第31回福岡・筑紫地区福祉倫理研究会(通称:対話の会)のご報告






今回の対話の会はとある利用者に関わる事業所、事業所の法人、家族のそれぞれが葛藤している架空の事例をもとに対話を行いました。今回、使用した事例は添付できたら添付しておきます。事例を見た瞬間に出た第一声は「字がちっさ!!全く合理的配慮がなされとらん」というお叱りの言葉をいただきました(笑)誠に申し訳ございません!!皆さんも御覧の際はくれぐれもご注意していただきますようよろしくお願いいたします。




今回の事例を対話をする前に読ませていただいたのですが、読み終わった後のどんよりとした参加者の顔を見ると作り過ぎてしまった感は否めませんが、日頃から共感生が高い支援者さんたちなんだと改めて感じたところでした。また、皆さんが日頃から関わる事業所や利用者、家族との間で同じように経験されたことがあるからこそ共感してもらえたところもあるのではないかと思いました。

今回はこの事例を読んでみて素直に感じたことやそれぞれ事例に登場する立場となって考えた時にどう感じるのか、この状況から前向きに進めるためにはどのような手段が考えられるのか、少ない情報の中で自由に推測したり想いを馳せながら自由な対話ができていたのではないかと思います。



【実際の事例】

生活介護カープに所属する(五代陽子:23歳入社1年目)は風間唯さんを含む利用者4名を担当し、利用時の生産活動や生活に関わる介助を行っている。


昨年6月に両親の離婚を機に入って周囲に人がいるにも関わらず服を脱ぎ始める、活動途中に奇声を上げながら自分の顔を叩く、食事途中であっても食器をひっくり返す、支援者が制止させようとするも壁に頭を何度も打ち付けるなどの風間さんの不適切な行動が頻回に起き始めた。五代さん自身もどのように対応、解決すれば良いのかわからなかったが、事業所の雰囲気として「担当利用者のことは担当支援員が解決すること」というような空気感があったため、相談する機会が持てず心身ともに疲弊していた。


サービス管理責任者:私も自分が産休中に契約した利用者だからよくわからない。法人がなんでこんな人を入れたのか正直わからない。日々の業務や計画作成、企画のチェックなどの業務があるので現場に入るのは難しいし、こういう人を対応する研修に行くと言っても法人がなんというかわからないし、実際に現状、研修などで人が抜けること自体が難しいよね・・・。本来ならばうちで観れる状況ではないし退所した方が良いと思う。


法人:経営的には利用者が定員に満たっていないのだから依頼があれば受けるのは当然。正直、区分5の方が毎日来てくれるのはありがたい。退所させる気などない。運営的なところを回していくのはサービス管理責任者や現場支援者の業務だろう。そのために毎年、基本給等のベースアップもしているし、処遇改善手当などで給与は上がっている。努力不足ではないか?


母親:本人が不適切な行動を起こす度に事業所から連絡があり疲れている。自宅では厳しく注意しているので不適切な行動はほとんど出ていない。だからどこかの施設に泊まらせることや入所施設などは考えていない。通所する事業所も見学や体験を行ってきた中で断られてきた経緯があるので退所されるのは困る。私自身も働いているし・・・。


居宅介護事業所:以前は事業所通所後、穏やかに近郊のコンビニで買い物をすることができていた。最近は信号待ちをしていると青信号になっても行動できなかったり、行動を促そうと腰に手を添えると声上げしながら自分の頭部を叩く、ヘルパーを叩こうとする仕草が出ている。以前は父親が受診の同行をされていたが受診できているのか、服薬できているのか自宅にいる祖母に聞いても答えてもらえないので困っている。


計画相談:2ヶ月前に前事業所閉鎖に伴い移管を受けたばかりで、ご家族の実態や関係性が築けていない状況。前事業所からの引き継ぎでアセスメントの記載がなかったことやサービス等利用計画書、受給者証のコピーが遅れてきたこともあり本人自身の状態像をうまく把握できていない。先日、受給者証を確認した際に短期入所の覧に(強度行動障がい該当)と記載が書いてあった。相談支援専門員になったばかりで一人事業所であるため誰に相談しても良いのかわからない。


五代陽子:現状の本人を観ていると苦しそうだし、何もできない自分も悔しいし悲しい。現事業所での支援や介護で本人が変わっていけるのであれば支援者としてなんとかしたいと思っているが、上司に相談しても期待できない。それならば他事業所で適切なサポートを受けた方が本人のためになるのではないだろうか?母親は自事業所での対応を望んでいるしどう解決したら良いのかわからない。障害福祉サービス事業所ってこんなところだとは思わなかった・・・。正直疲れた。もう辞めたい・・・。






各グループで出ていた意見や感想を抜粋したいと思います。


【サービス管理責任者について】

・サービス管理責任者としての役割を果たせてないよね…。

・こういう風に無気力な状態になってしまう原因って何?

・法人に対して諦め感はあるもののこのサビ管も自分の生活を成り立たせるために割り切っているのかもね。

・サビ管が退所を求めている時点で五代さんは何も言いようがなくなるね。

・法人側に現状の運営上の課題点を理解していただけるように風間さんの行動上の問題を分析すること、分析した上で風間さんの障がい特性の理解や特性に応じた支援が必要な研修を受けることで継続した利用が可能になることを法人側に納得してもらえるように文書で報告したらどうか。




【法人について】

・法人が言っていることはごもっともなこと!!

・言い方や伝え方は良くない!!

・運営側との対話がなされていないと思う。こういう法人だと退職者は多いだろうな。

・風間さんのことを考えて運営側とも歩み寄った互いに協力し合える最初の一歩の方向性が導き出せると良いよね。

・退所させると想定して同じサービスを他事業所が担うとするならば、当該事業所にできない理由を求めるのは法人として当然じゃないか?




【母親について】

・一番苦悩して余裕がない人だと思う。

・母は頼れる人や相談できる人はいないのではないだろうか。

・祖母の介護、本人のこと、妹(叔母)のこと、仕事のこと母のケアも必要。

・祖母、叔母等の今までの家族間で起きた関係性の中で母自身が歪んだ愛着形成や認知形成がなされたものがありそう。

・「自宅で何も起きていない」の裏側には退所させられたくないという感情も入っていると思う。

・母親をサポートできる近所の方とかいないのだろうか?

・本人自身の障がい理解や受容はできていないように思う。

・障がい理解や受容ができていないのには理由がありそう。





【居宅介護事業所について】

・一番冷静に現状を見つめることができていると思う。

・居宅のサービスを提案しても良いのかも?でも母はサービス自体を望んでいない?




【計画相談について】

・ポンコツすぎる!!事例作成者の注意喚起のように捉えた。

・相談支援専門員としてこの方の調整会議をすると想定した場合、相反する意見が飛び交うと想像するがどんな結果(落とし所)を求めるの?

・アセスメントが前事業所閉鎖に伴い取れないのであれば、その理由を明確に伝えた上で本人が通学していた特別支援学校、現在関わりのある生活介護事業所、居宅介護(サービス提供責任者)母親、叔母等にも聞き直しても良いかもしれない。

・私が相談支援専門員であれば本人自身が意思の表出が難しくても本人がどのように感じているのか、どのような生活を望んでいるのかを関係機関に投げかけるかもしれない。また、実際の本人の行動をみて支援者側がどのように感じているのかを聞いてみるかもしれない。




【五代陽子について】

・何でこの子こんなに自己肯定感が高いの?

・ぶっちゃけ、こんな事業所辞めても良いと思う。

・同じ事業所内の支援者で彼女と同じ考えや価値観で業務をしている方と話せると良いと思う。

・こういう支援者を教育・育成していく組織づくりは必要だと思う。




【その他】

全体的に関わっている方達に余裕がないことと医療的な介入は必須。まずは入院していただいて支援体制を再構築していく方向性も大事だと思う。



色々な意見や感想を聞く中で今回、私が一番印象的だったのが…。

「この事例を読んだときの読んだ人の感情的な余裕の有無でポジティブに取られることができるかネガティブにとらえてしまうか左右されるのではないか?」

これは私たちが対人援助職として常に感情労働と言われることを物語っているのでないかと再認識させられたフレーズでした。



架空の事例であり情報が少ない中で推測しながらもそれぞれの登場人物に想いを馳せながら自由な発想で「自分はこう思う」とアイメッセージを伝える体験をしてもらえたと思っています。




「対話」や「心理的安全性」という言葉が飛び交うことが多くなったと思います。

先日、書店に行きましたが「心理的安全性」が題材にされた書籍がたくさん並んでいた様子を観た時に私たちの生活の中でブームではなく文化になる前触れのような気がした感覚を覚えています。




「心理的安全性」…。

私が考える「心理的安全性」とは簡単に言うと役割や役職、人種、性別、障害の有無、経験など取り払った状況の中で否定や拒絶されることなく受け止められる場が提供されている状態と捉えています。

だからこそ自分の常識や価値観とは違う相反する言葉や語りを聞くことや過去の自身の経験や体験の中で起きたトラウマや封印したいことを聞く機会も当然あります。

そのような他者から語られる言葉を受け取り、他者が観る景色を想像することから「心理的安全性」は作られていくのだと思っています。




これからも対人援助職として組織や関係機関、利用者、ご家族と良好な関係性を構築していくための学びを皆さんと共に考えていけたらと思っています。

すてきなゴールデンウィークをお過ごしください。




対話の会担当 松田






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