第83回チキンの会では、計画相談支援の現場で12年間実践してきた経験から、家族支援の重要性についてお話させていただきました。相談支援専門員として「本人だけでなく、家族全体を見る視点」の大切さをお伝えしました。
ブランデーケーキが紡ぐ物語
研修の冒頭で紹介したのは、私の記憶に深く刻まれているケースです。70代の両親と40代の娘さんの家族。娘さんは養護学校卒業後、作業所で「作業もせずニコニコしている」姿を見たお母様が「周囲に迷惑をかけている」と連れ帰り、それから何十年も自宅にこもって生活していました。
毎回のモニタリング時、お母様から渡されていたブランデーケーキ。何度も「いらないよ」と伝えても、持ち帰らないと帰してもらえず、毎回しぶしぶ受け取っていたことを思い出します。その後、首を横に振り続けるお母様と何度もやり取りを重ね、ようやく娘さんの生活介護への通所につなぎ、最終的にはグループホームへの入所へと支援を進めました。ほっと一息ついた矢先、お母様は認知症と糖尿病の悪化により、突然帰らぬ人となってしまったのです。
「あの時、この娘さんをお母さんから奪わなかったら、まだ元気に一緒に暮らしていたんだろうか」
このとき私は、「家族支援の難しさと重要性」を身をもって知りました。正解のない支援の中で、常に自問自答しながら進んでいくことの難しさを痛感した出来事でした。
親が抱える見えない苦しみ
なぜ親が「過干渉」「過保護」にならざるを得ないのか。その背景についてもお話しました。
•公園で他の親から「あなたの躾が悪い」と言われた経験
•医療的ケア児の親が好奇の目で覗かれる経験
•「親の責任」という陰口を耳にした経験
「親御さんたちは、普通の親が抱えるような子育ての喜びを感じにくい苦しみを抱えている」
これは私たち支援者が見落としがちな視点です。障害のある子を育てる親の孤立や苦悩を理解せずに、表面的な支援をしてしまう危険性があることを改めて指摘しました。
早期からの介入の必要性
実際に私自身、介入する年齢がどんどん下がっています。
「大人になってから本人だけと向き合うことは可能かもしれない。しかし保護者が関わる場合、本質的に本人の希望を叶えていくためには、その前の段階から保護者に介入していく必要がある」
7年、8年、10年という長いスパンで関わることで、節目節目での「私の声が届くか届かないか」が決まります。それは日々の関わりを通じて積み重ねてきた信頼関係に左右されます。実際、ある保護者は、お子さんがまだ幼稚園や小学校低学年の頃に私が話した内容を卒業間際まで覚えていて、就労への道をブレずに選択するきっかけになったというエピソードを紹介しました。
実践的な支援の具体例
研修後半では、具体的な支援の実践例を共有しました。
1. じっくり話を聞く時間の確保
保護者が「すっきりした」と思えるまで話を聞くことを普段から心がけています。モニタリング会議を「単なる聞き取りの時間」ではなく、保護者にとってのガス抜きや労いの時間として位置づけています。
2. 「未来語り」という手法
会議の後、15分程度の「お土産話」として将来の可能性を語るように心がけています。保護者が我が子の将来に向けた選択肢を広げるきっかけになればと思い、実践してきた手法です。
3. LINEの活用
「反応は次の日の朝かもしれないけど、思ったことを言いたいときに送ることができる」という環境を作ることで、先回りした支援が可能になります。些細な子育ての悩みに丁寧にやり取りを積み上げることが、信頼関係につながることをご紹介しました。
18歳という節目の意味
「18歳になったら本人が決めるんですよ」
このことを、お子さんがまだ幼い頃から保護者に繰り返し説明するよう心がけています。その積み重ねが、実際にお子さんが18歳を迎える頃には、保護者が現実として受け入れる機会となることを説明しました。
契約書のサインを本人にしてもらう瞬間が「母子分離の最初の手続きの一環」になります。こうした制度的な仕組みを意図的に家族支援に活用していく視点をお話ししました。
支援者として注意すべきこと
私自身が支援者として注意していることについてもお話ししました。
エンパワメントの重要性
「私たちは、お母さんの保護者になってはいけない。家族が自ら決定できるようエンパワメントをすることが大切です。」
答えを出すのではなく、家族自身が決定できるよう支援すること。最終的には「家族で考えます」と言ってもらえることが重要だと感じています。
不完全さを認める
松田さんからは、「不完全だからこそ相談してもらえている」という言葉がありました。AIのような完全な答えではなく、人として一緒に悩み、考える姿勢が安心につながるというお話を紹介しました。
苦情は直接来ない
「ご家族からの苦情は私たちの耳には直接入りません」
この現実を踏まえ、小さな信頼関係の積み重ねがいかに大切かを改めてお話ししました。
全体を通じて
今回は私の実践を通じて、家族支援とは「長い時間をかけて家族全体をアセスメントし、保護者のケアをしながら、最終的にご本人の権利を守る」という複雑でありながらも重要な支援のあり方だということをお伝えしました。
「どんなにひどい親でも、本人にとっての大切な社会資源」
この言葉が象徴するように、家族の形は様々であり、一見危うく見える関係性にも、その家族なりの機能があります。私たちの理想を押し付けるのではなく、その家族の形を認めながら支援していく姿勢が重要であることをお伝えしました。
また、セルフプランの是非については、この地区で計画相談が必須となっている現状の中で、「本当に必要なのは、困った時に相談できる人がいること」という本質を見失わないよう支援することの重要性をお話ししました。
今後の実践に向けて
今回のチキンの会が今年度最後の研修となりましたが、これまでの支援を振り返り、新たな視点を得る機会となれば幸いです。
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